ヘボゲーマーかくれねこの活動メモ

だいだいXM(エチゾチック・マター)もとい某位置ゲーのせいで興味無かった筈のスマホ・タブレット向けゲームアプリのほんの一部に心を囚われてしまった毒吐き閑人。更新は不定期且つ気力の有るときのみなので悪しからず。

『けけロイド』の前に全ての「けけロイド」は一度、死んだ。されどとたけけが「メジャーデビューした元ボカロP」と同じ地平に立てるかというと……

また今回も目が滑る長ったらしい悪文記事を書く。所詮は物事知らん能無しなヤツのケチ付け目的の愚痴記事の域を越えたものではないので、なんじゃこの記事は(呆w)と思った方は「そっ閉じ」されることをお勧めする。

長い長い愚痴(前置き)

Twitterで日頃何かと日本という国やその社会や文化への愚痴や、その愚痴の一環として任天堂案件を腐すような事を書いている一方で、自分のAndroid携帯にはポケ森こと『どうぶつの森ポケットキャンプ』をはじめとした任天堂のゲームアプリを入れているのみならず、Twitterのファルコン・ランチネタに端を発する所謂スマブラランチアカウントのn番煎じネタとして「どうぶつの森シリーズのとたけけのランチアカウント」を不定期でやっているようなヤツでしかない自分がこんな事を言うのも正直かなりアレなのだが、以前の当ブログ記事でも書いたが2020東京五輪の開会式をきっかけに日本のゲーム音楽が変に脚光を浴びてしまった件については自分は正直未だに腹立たしく思っている。オタク系ネット民の多くが2020東京オリパラ開催の是非を巡る議論で本邦の音楽業界含めた二次元でない文化コンテンツ方面を過剰に腐す形で悪目立ちし、五輪開会式でゲーム音楽が使われた途端にクールジャパン案件への疑問符や本邦におけるオタク文化の祭典であるコミックマーケットの会場である東京ビッグサイトが五輪開催の為に接収された事の怨嗟を忘れて大喜びしたというオタクでない層から見ても醜悪だったであろうネット上の光景は今後も覚えておく。
最も自分は天寿を全うした感があるすぎやまこういちが本邦のダメな歴史認識流布に荷担していた件を2000年代末に知って以来、ああいうクズを有名にした日本のゲーム産業なんて正直潰えてくれて構わんと思っている程なので、マジですぎやまこういちが生前にその言動を以て「焼かれる」事が無かった事も「滅びよ日本(怒)」としか言いようがないし日本政府が彼に文化功労者の栄典を与えた事は悪行にも程がある。安倍政権時代が終わる前年に「マリオのお父さん」こと宮本茂に本邦政府が文化功労者の栄典を与えたのはすぎやまにそれを与える道筋を付ける為でもあっただろう。ただすぎやまはドラクエ案件で有名になる以前に元々ニッポン放送の音楽スタッフとしてTV・ラジオ業界の音楽方面でそれなりの実績を有していた人物でもあり文化功労者に選出される前に案の定音楽方面への功績をもって叙勲されていた訳で、なんというかドラクエで改めて有名になった事以上にフジサンケイグループの縁が祟ったかという感がしなくもなく、そういう意味では彼の件も結局は「日本さえなかりせば」という話だったとしか言い様がない。
さてその「日本さえなかりせば」というより日本発の2ch系ネット文化さえなかりせば……という英語圏発のネット上の流行がちょっと前に一部で政治系ネット民絡み案件としても話題になっていたヴェイパーウェイヴとそこから派生したインターネットミームの類とやらではなかろうか。以前それについて説明しているネット記事に目を通したが(実質高卒が最終学歴な)自分としては「それらって日本語圏のネットでニコニコ動画にUPされてきたような代物ですよね?」という反知性丸出しの感想しか出て来ず、まあアリだとは思うけど深入りする気も起きない。あとヴェイパーウェイヴの元ネタが1980~1990年代の日本のテレビゲームを含めた娯楽コンテンツと聞くと、その頃のJ-POPが海外で今頃ウケているという話も実は同類かつ同根の現象じゃないのかと言いたくなる訳だが、と思ってたらやっぱり一連の事象と見られるようで。
tabi-labo.com
ヴェイパーウェイヴとその派生・周縁案件のうちネットミーム系のものはオルタナ右翼案件と結び付いたという指摘がある分、余程のマニアか保守系ネット民を除き変に持ち上げられる事は暫くないとは思うが、過去のJ-POPが世界でウケているという話は自分には「日本スゲー」的な取り上げられ方してる感があってなんだかなあという感じしかしない。J-POPは既に斜陽であることはわかっている人も多いと思いたいが、その全盛期を遥かに上回る流行ぶりの今をときめくK-POPもまたJ-POPの流れを組んでいると言われるとそれもそれで結局「日本スゲー」的な見方でしかないと思ってしまう。J-POPもK-POPもその「お手本」は欧米の娯楽音楽だろうに。「クールジャパン」という馬鹿で間抜けでカッコいいという意味でのクールさが無いどころか名前の通りお寒い案件を正当化するような娯楽文化評はもういい加減この世から消えていただきたいのだが……

ヴェイパーウェィヴの先駆者みたいなものだったのかもしれないどうぶつの森のとたけけ案件

ここからが今回の記事の本題。自分が2020東京五輪開会式の件でゲームファンなオタク系ネット民のみならず本邦のゲーム業界にも改めて呆れる以前、たまたまネットで見つけて脊髄反射的に「ご冗談をw」と思ってしまった記事がある。2019年にKotakuに投稿されたどうぶつの森シリーズのとたけけに対する礼賛記事だ。
kotaku.com
なお自分がこの記事を知ったのはそれの日本語翻訳記事を見つけた事がきっかけである。
note.com
その時の自分の脊髄反射的なツイートがこれ。ヴェイパーをウェイバーとか書いてしまっている事にかなり後で気が付いてしまい修正する機会を逃してしまった。恥ずかしい。


なおこのKotaku記事の内容、英語圏における歴代どう森シリーズに実装されてきたとたけけ曲のカバーやニコニコ動画発の音楽MAD系ネットミーム「けけロイド」に触発されたであろうとたけけネタの音楽MADの動向の一端を知るには良い記事である。ただし文中でポケ森の発表時の動画と紹介されてリンクが貼られている動画はとびだせどうぶつの森amiibo+ダイレクト英語版である
因みに自分はどう森シリーズのとたけけについてはNianticの『Ingress』をプレイするようになった後それのユーザーコミュニティに所属してそこのメンバーがポケ森をやらなかったら今でもあまり興味を持たずにいたかもしれないので、ゲーム音楽が所謂「ピコピコ音」から完全に解放された以後の時代において最も影響力を与えたミュージシャンがどう森シリーズのとたけけとか言われると、それって実のところ一部のゲームファン限定の話ではないのか? としか自分には思えないのだ。
しかしゲーム音楽含めた音楽全般の事について無知な自分がこう書くのもどうかしているが、どう森シリーズのとたけけ曲はゲーム音楽の中でも既存の音楽のパロディ或いはオマージュという方向を露骨なまでに行った代物で、ゲーム作品を通じて提供された「古今東西の音楽の目録的なもの」の域を越えることは無い代物だと思っている。ある意味日本がほんの一時の経済的繁栄を切っ掛けに思い上がり調子をこいていた1990年代前半ですら所詮欧米先進圏の文化の劣化コピーでしかない薄っぺらいものと自嘲する向きのあった、そしてそれ故に世界で認められると日本の中では世界進出を果たしたぞと過剰に持ち上げられる悪弊が相変わらず酷い本邦の文化の極みのひとつだと言えるかもしれない。まあとたけけ曲に限らず任天堂作品案件が元々そういう代物であり、だからこそスーパーマリオシリーズの主人公であるマリオが2020東京オリパラの広報に使われ五輪開会式の初期案の時点で開会式の演出に採用される予定だったのだと言ってしまって構わないだろう。
そして自分は音楽の事に限らず世の中の諸事象についてとんだ情弱だから故にヴェイパーウェイヴと呼ばれている事象のざっくりとした説明を見て「ヴェイパーウェイヴとその派生案件=ニコニコ動画的なるもの」という雑な認識になっていたところに先のKotakuのとたけけ礼賛記事を見つけてしまった事で、「とたけけ曲とそれに触発された二次創作案件って結局のところヴェイパーウェイヴとその派生案件の同類にしてその一端に過ぎないのではないのか??」という雑な見方をするようになって、そしてその見方は自分のヴェイパーウェイヴに対する認識同様恐らく間違っている可能性が大きそうなのだが修正する気がどうも起きない。
実際とたけけ曲のうち、特に現代音楽系のものは辛辣な言い方をすればそれらもまた日本の娯楽音楽同様の欧米圏のそれらの劣化コピーでしかない代物であり、とたけけ曲そのものも古今東西のあらゆる音楽ジャンルのサンプルという設定なのはそれらの残念過ぎる楽曲タイトルからも明らかだ。それ故にとたけけの奏でる曲は音楽としては大いにアリだし個人的にはウケる曲もあるのだが、正直学校の音楽の授業っぽさがあってどんなに曲が良くてもどこか退屈なのである。
しかしネットの世界は狭い世界の中におけるウケ狙いで盛り上がるもので、ニコニコ動画発のどう森二次創作ネタの「けけロイド」と呼ばれる音楽MAD動画の大半は既存の曲のカバーで、それも初期はニコ動ユーザー好みのゲーム音楽・東方ProjectシリーズBGMの二次創作曲(所謂「東方曲」)・ボカロ曲・アニソンのカバーだったりで、そもそもMADという事もあってそれら自体がニコ動ユーザー受けを狙ったカオスな代物が多かった。
以下その一例を幾つか。これは東方ProjectシリーズBGMのうち最も名高いであろう『東方紅魔郷』よりU.N.オーエンは彼女なのか?』のカバー。
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こちらはcosMo@暴走P初音ミクの消失』のカバー。
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そしてこちらはwowaka『裏表ラバーズ』のカバー。一見まともな動画に見えてしれっと驚き顔のみしらぬネコが登場するという案の定ぶりw
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IOSYSによる東方曲でネタ色があまりにも強い迷曲のひとつとして有名な『チルノのパーフェクトさんすう教室』のカバーもある。
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勿論任天堂作品の曲を歌わせたものもある。ちなみにこれはとたけけの元ネタである任天堂のコンポーザー・戸高一生氏が嘗て作曲した『カエルの為に鐘は鳴る』BGMの『王子の冒険』をけけロイドでカバーしたという感涙とまでは行かなくともいい意味でニヤリとさせられる代物。
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そしてこちらはアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』よりまっがーれ↓スペクタクル』のカバー。因みに日本語圏のネット上では某とたけけ曲自体がそれのパクりではという邪推ネタがあったw
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これは『とある科学の超電磁砲』OPのonly my railgun』のカバー。
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宮本茂登場以後の任天堂が手本かつ目標としてきたディズニー作品のアニソンカバーもある。これは『アナと雪の女王』テーマソングの『Let It Go』のカバー。
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そして遂にJ-POPをけけロイドでカバーする者が登場し、あつ森こと『あつまれどうぶつの森』発売後にその流れは加速していく。これらは初期けけロイド動画では当たり前だったMADならではのカオスぶりは消え、純粋に「とたけけがカバーしている」系の動画へと洗練されている。これらの中にはけけロイドという言葉を使わず「とたけけが歌う」という由のタイトルが付いている事が多い。
これは米津玄師『海の幽霊』のカバー。
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上記『海の幽霊』カバーの制作者の方があつ森発売後に制作されたKing Gnu『白日』のカバー。
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J-POPというよりはアニソン扱いになりそうなLiSA『紅蓮華』のカバー。
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YOASOBI『夜に駆ける』のカバー。
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なおJ-POPをカバーしたものでも初期のけけロイド動画に近いカオスなノリのものが無いわけではない。これはPVがネットミームとして消費されていたサカナクション新宝島』をカバーしたもの。
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だが元々ニコ動発祥案件のこと、中には「コンギョ」もしくは「攻撃戦だ」と呼ばれる事が多い北朝鮮のプロパガンダ曲『攻撃の勢いで(공격전이다)』をカバーした『けけコンギョ』というかなりアレな代物まである。なお使われている画像は日本語圏のネットミーム汚染の代表格である淫夢ネタの出典元こと鬼畜系同性姦作品『真夏の夜の淫夢』が元ネタであるという二重三重にアレな代物である。
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『けけコンギョ』程ヒドいネタではないが、ガーナの「棺桶ダンス」ことダンシング・ポールベアラーズのネットミームをけけロイドでカバーしてみたものもある。(なお制作は前述の『新宝島』カバーの制作者による。)
youtu.be
とたけけ絡みの音楽ネタ二次創作はけけロイドだけではない。とたけけ曲のライブバージョンはどう森シリーズのNPC達が話す「どうぶつ語」で歌われているという設定なので、それに現実世界の言語で歌詞をつけ更にはそれを歌うというけけロイドと比べて創る人を選ばない二次創作も行われている。それらについては正直けけロイドよりも面白くないので割愛するが、その一例としてOSTER projectによる作詞者不明の『けけアイドル』非公式歌詞をボーカロイドでコピーした動画を挙げておく。
youtu.be
因みにこの『けけアイドル』の非公式歌詞であるが、それが実装されたとび森こと『とびだせどうぶつの森』発売後にニコ動にUPされた以下の動画のコメント欄にその非公式歌詞の元になったと思われるものが書き込まれていたりする。
nico.ms
更には現実世界の既存の楽曲のジャケットのパロディなファンアートまである。
front-row.jp
getnews.jp
しかしこの件を取り上げてネットニュースの記事にしたのが2chやニコ動と縁深いガジェット通信なのは案の定と言うべきだが、海外セレブ情報誌の編集元が運営しているフロントロウが記事にしたのはやや意外な感がある。が、実は海外の芸能ネタ関連の面白ネットミームでもあるのでネタにされたのも当然と言え、そういうところも含めてどう森シリーズのとたけけはやはりヴェイパーウェイブの一端にして先駆者であったという大変雑な評価が出来るかもしれない。因みにヴェイパーウェイブの発端と見なされている作品が登場したのは2010年との事だがニコ動にけけロイドが登場したのは2008年3月。これは街森こと『街へいこうよどうぶつの森』そして戸高氏がディレクターを勤めた音楽ゲームWii Music』という商業的な成功を期待されるも売上が芳しくなく後に株主向け質疑応答にて公開処刑を喰らった2作品が発売される半年以上も前の事だ。
dic.nicovideo.jp
しかもけけロイドの発端となった動画は4chan由来と見られるネットミーム「ロイツマ・ガール」から派生した『イエヴァン・ポルカ』カバーの音楽MADというニコ動発のネットミームのひとつだったという如何にもニコ動的な事象である。けけロイドの登場には後にヴェイパーウェイヴの流布の場のひとつになった4chanにおけるネットミームの存在が影を落としていた訳だ。(なお制作は前述の『初音ミクの消失』『チルノのパーフェクトさんすう教室』カバーの制作者による。)
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ついでに言うなら戸高氏への好評価が任天堂作品ファン(それも信者呼ばわりされるようなレベルの者)以外に広まったのは、彼が関わった過去の任天堂作品の多くにギミックの一環として実装され、またどう森シリーズのとたけけ曲のひとつにもなっている「けけソング」について取り上げた英語圏の2006年のYouTube動画を編集したものが2011年に日本語字幕付きでニコ動にUPされ、それが日本語圏のオタク系ネット民を中心に「日本スゲー」論の亜種とでもいうべき「任天堂スゲー」論的な周知をされていったからなのではと自分は見ている。
nico.ms
因みに上記の動画の元動画は以下の3つ。
youtu.be
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最も戸高氏本人の音楽に対する認識はあつ森発売後にBillboard公式に掲載された彼へのインタビュー記事からも大変謙虚なものである事が伺えるので、彼への好評価の広がりは当然の結果なのかもしれない。
www.billboard.com
因みに上記記事の日本語版はこちら。
www.billboard-japan.com

とたけけを巡る任天堂の思惑と戸高一生以外の任天堂の「とたけけ」達

実はどう森シリーズのとたけけ案件についてはタチが悪い事に任天堂自らその由来である戸高氏と紐付ける事を意図的にしてきたところがあるという事だ。まあとび森発売前のとび森ダイレクトのようにどう森シリーズのプロモーションの範囲内でやるうちはまだ許せるし理解できるとしても、それ以外のところでやってしまっていたのがなんだかなあという感がある。
2003年に雑誌『ニンテンドードリーム』の読者向けイベントとして開催された「マリオ&ゼルダビッグバンドライブ」に戸高氏が出演した際、彼がヨッシーの声の人であるという紹介でもすればいいのにどう森のとたけけの画像を貼った板を持ってきていたり、
nico.ms
『Wii Music』のメディア向けカンファレンス及びプロモーションビデオでも宮本茂がどう森のとたけけのモデルとなったスタッフが制作に関わった作品であることを強調していたりする。なお『Wii Music』についての顛末は前述の通り。
nico.ms
youtu.be
その結果何が起こったかというと、どう森シリーズの音楽案件に対する評価、とくにとたけけ曲に関する評価が戸高氏と露骨に紐付けられてしまっていることだ。YouTubeにUPされているとたけけ曲動画のコメント欄を見ると実際の作曲担当が明かされていない曲が多数なのに戸高さん凄い的な内容のコメントが散見されていたりする。勿論どう森シリーズのサウンド案件の責任は彼に集中することになるのである程度そうなるのは当然と言えば当然とも言えるのだが、チーム作業で制作しているのがスタッフクレジットで明白になっているゲーム作品の音楽案件において特定のスタッフに対しそこまで露骨な好評価がされている事例って他にあるだろうか? とも思ってしまう。
ただこのような事象についてはコナミのBEMANIシリーズが2000年代末から2010年代後半にかけて制作に関わる自社所属のコンポーザー陣を前面に出した内輪ネタや露骨なウケ狙いもアリのプロモーションを展開し、その中でニコ動ユーザーにネタ的に弄られるべくして弄られる言動に出るも(ユーザー層の傾向のせいもあるが)大きな顰蹙を買うことも無く、またコナミに対する失望も相まって露骨な好評価を得るに至ったwacこと脇田潤氏や評価を大きく落とさなかった藤森崇多氏といった事例もあるので、実のところスタッフの知名度やゲームファンなネット民にどれだけウケるかによっても評価はかなり左右されるものなのかもしれない。
最も今後はゲーム業界もクリエイターとしての実力のみならず「人道に悖らない方向での人徳の高さ」がこれまで以上に要求されてくることになろうことは大規模なセクハラ問題が明るみになったBlizzardを見れば明らかで、その問題の件を受けて退職したスタッフのひとりジェシー・マクリー氏に由来する名前がつけられていた『オーバーウォッチ』のマクリーが「本来の名前を名乗る事にした」という設定と共にコール・キャスディに改名された事を見ても、キャラクターの名前に制作スタッフに由来する名前を付けたりスタッフの内輪ネタを使ったプロモーションを行うのは実に諸刃の剣なのだ。どう森シリーズのとたけけは正にそういうリスクを抱えたキャラでもあり、だからこそとたけけをプロモーションに利用した『Wii Music』が発売から間もない時点で商業的に芳しくないと判った時点で任天堂公式の「社長が聞く」に戸高氏をフォローする形での反省会記事が掲載されたのだと見ることも出来よう。
但しどう森シリーズ第1作目の『どうぶつの森』で登場しその後も歴代どう森シリーズ作品に実装されている初期とたけけ曲の作曲の殆どは戸高氏によるものではなく、後にスプラトゥーンシリーズのサウンドディレクターを務める峰岸透氏によるものだという事は強く言っておかねばならないだろう。アーカイブサイトWayback Machineに収録されている過去の英語圏向けゼルダの伝説シリーズ公式サイト「Zelda Universe」の制作スタッフインタビュー記事のページ「Inside Zelda」のPart.13においてその件が峰岸氏本人より語られている。

During the development of Animal Crossing, I was in charge of composing K.K. Slider’s “present music.” I needed to create more than 50 different musical tracks! It had to be from all kinds of musical genres, and it also had to sound like it was played on some cheap keyboard! I had no problem composing music from genres I was already familiar with, but I couldn’t create tunes from more than 50 different genres just using my imagination. I needed to study hard and learn about a variety of music to complete the project, and it was a very tough job to squeeze all that information into my head. 

https://web.archive.org/web/20061215002402/https://www.zelda.com/universe/game/twilightprincess/inside13.jsp

その為か、2021年6月に発売された『あつまれどうぶつの森オリジナルサウンドトラックとたけけミュージック集Instrumental』付属のブックレットに掲載のクレジットには作曲に関わった任天堂のサウンドスタッフの方々の名前の一番上に峰岸氏の名前が書かれている。
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戸高氏と峰岸氏の他に名前があるのはとび森のメインタイトル曲の作曲者である片岡真央(富永真央)氏、とび森で実装された『けけアイドル』作曲者のひとりにして『ピクミン3』のブリトニーや羽ピクミンのCVを担当した朝日温子氏、スプラトゥーンシリーズの『シオカラ節』作曲者の藤井志帆氏、峰岸氏同様に初期どう森シリーズに関わりあつ森で再びどう森シリーズに関わった永田しのぶ(田中しのぶ)氏である。
但しあつ森メインタイトル曲にしてとたけけ曲でもある『みんなあつまれ』作曲者である岩田恭明氏の名前は掲載されていないのはどうかと思うが初期どう森シリーズに関わった永田権太氏の名前が無いのも興味深い。因みに藤井志帆氏は街森サントラ集『街へいこうよ どうぶつの森 ~森の音楽会~』のボーナストラックのうちの一曲である『けけソウル』クラブVer.のリミックスを担当されていたがとたけけ曲そのものの作曲にも関わっていた事が明記されたのはあつ森サントラ集のブックレットが初であろう。以下の写真2枚は街森サントラ集のリーフレットにあったクレジット及びボーナストラックの楽曲コメントである。
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この時の藤井氏による『けけソウル』クラブVer.の影響かどうかは知る術もないが、この後とび森において「クラブDJの姿のとたけけ」ことDJK.Kが登場したのは周知の通り。
2019年11月のNintendoLiveにおける「ハイカライブ2019」の前座にとたけけが登場したのも、あつ森発売を控えていたことに加えてスプラトゥーンシリーズのサウンドディレクターである峰岸氏こそもうひとりの「とたけけ」であり、峰岸氏に次いでスプラシリーズの音楽を支えている藤井氏もまたそのひとりであった、という事もあるのかもしれない。但しこのイベントで披露されたとたけけの曲は『みんなあつまれ』だったが……
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そして音楽面のみならず、とたけけというキャラクターを純白のテリア系の姿の犬族として描くどう森シリーズのアートデザイン担当者やとたけけのセリフを司るスクリプト担当者もまた「とたけけ」のひとりであろう。因みに2006年に小栗旬がとたけけのCVを演じたアニメ映画版どう森が上映された後にどう森シリーズのデザイン統括者は寡黙な鳩族の喫茶店店主マスターのモデルという説が、そして『Wii Music』のスタッフインタビュー任天堂公式サイトの「社長が訊く」に掲載された後にどう森シリーズのスクリプト統括者はモグラ族の説教オヤジなリセットさんのモデルではという説が一部で流布したようで、とび森発売後のとび森ダイレクトに於いて制作スタッフ陣がその説に納得しつつ否定した事があった程である。

『けけロイド』という名のネットミーム「けけロイド」に向けられた最終兵器かもしれないボカロオマージュ曲

とまあ、どう森のとたけけ案件については個人的には色々思うところがあるのだが、2021年10月のあつ森ダイレクト観るまでよりによってとたけけ案件で驚愕するネタが投入される事になろうとは思ってもいなかった。今年11月初旬のあつ森の最終大型アップデートで実装された新たなとたけけ曲のひとつ『けけロイド』である。
youtu.be
土曜の晩にお馴染み(但しあつ森では必ずしも土曜の晩に行われない時がある)とたけけライブ版はこちら。
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あつ森の追加DLC『あつまれどうぶつの森ハッピーホームパラダイス』で実装されたDJK.K仕様のとたけけ曲リミックスメドレーにも勿論『けけロイド』のリミックスが入っている。
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そのタイトルと曲ジャケットのイラストを見て、ただでさえボーカロイドやその類似案件のUTAUに近い歌声のとたけけでボカロネタやるんかいと思うのみならずニコ動発のネタであるけけロイドを遂に公式が回収しに来たのかと思うも、ある意味ボカロ曲の曲調の元ネタのひとつは日本のゲーム作品におけるゲーム音楽なのではとも思ってみたりで戸高氏以下どう森シリーズに関わる任天堂のコンポーザー陣ならボカロ曲っぽい曲は書けるだろうとも思ったりもした。
生憎自分はあつ森以前にNintendoSwitchなる何かと問題を抱えたゲーム専用ハードなどまだ持っておらず、該当の曲を知るにはあつ森とたけけライブのプレイ動画のYouTubeへの投稿待ちという大変他力本願な状況だった。そしてYouTubeにUPされた『けけロイド』動画を観た自分は、やはりどう森シリーズのスタッフ陣は「けけロイド」という言葉の意味を変えようとしたのかなと思った。まあ実際にそこまで考えて創られた曲かどうかまでは作曲に関わったスタッフが内情を明かすことがない以上は判らない。
あつ森アプデにおける『けけロイド』実装は、けけロイド案件よりも桁違いに醜い案件である4chan発の『カエルのペペ』ネットミームに対するペペの生みの親である漫画家マット・フューリー氏の対応に似たものであったのかもしれない。
gendai.ismedia.jp
とたけけとペペとの違いは、現時点でとたけけは幸運なことに「社会におけるマジョリティ層によるこれまでのダメな所業やそれを支えてきた思考を正当化する」為のアイコンに使われるケースがまだ少ない、という事の1点に過ぎない。だが日本語圏のネット上において任天堂案件を過剰に持ち上げてきた層についてはTwitterにおける自分の観測範囲内だけでも残念ながら歴史的な必然の結果で実は回避不可避だったであろう「日本の経済的繁栄期終焉とそれに伴う国際社会における日本の存在感の必然的な低下」を嘆く本邦の保守派属性の者及びその影響を受けた者が相当いると見なさざるを得ないところがあるだけに、どう森のとたけけ案件がネット民の手で今後どうなるかはわからないのである。
英語圏のSNSにおいて鬱屈を抱えた保守派ネット民が自らの義憤から産み出した悪意の器として利用されたペペはその死のエピソードを以て己の姿を借りて電子の海にばら撒かれた悪意との対峙を試みたが、とたけけはボカロ曲オマージュの持ち歌を以てネット民の玩具にされた己の歌声を取り戻しに来たのかもしれない。実際あつ森に『けけロイド』が実装されて以後「けけロイド」でネット検索すると当然ではあるがとたけけ曲の『けけロイド』ネタもニコ動発のけけロイドと一緒に表示される状況になっている。どう森シリーズ制作スタッフ陣そして任天堂はこれまで日本語圏ネット上に於けるネットミームでしかなかった「けけロイド」という言葉をあつ森の最終大型アプデによって自らの手中に収めた訳である。「けけロイド」というネットミームは、とたけけ曲『けけロイド』によって一度、死んだのだ。
因みにごく最近日本語圏のYouTubeにUPされたけけロイド動画には動画制作者によるオリジナル曲を発表したものが登場している。だがこれはあつ森の最終大型アプデ予告によってとたけけ曲としての『けけロイド』の実装が判明した後からアプデ実施の間に創られたものである。
youtu.be

それでもどう森のとたけけは「元ボカロP」には多分なれない

しかし、どう森シリーズのとたけけが米津玄師やYOASOBIやヨルシカのような「メジャーデビューした元ボカロP及びその音楽ユニット」と同じ地平に立てるのか、それ以前に初音ミクはじめとしたボカロキャラと同じ地平に立てるのかというと微妙に思える。なぜならどう森のとたけけは初音ミクをはじめとする作曲用ツール+αの存在としてのボカロキャラと異なり任天堂のゲーム作品のアイコンキャラのひとつに過ぎないからだ。ぶっちゃけバンダイナムコのアイドルマスターシリーズをはじめとしたアイドルゲームのキャラや、任天堂作品であればスプラトゥーンシリーズに登場するシオカラーズやテンタクルスはじめとした劇中で流れる曲を作ったミュージシャンという設定のキャラと同じ存在である。そしてこう言うとゲーム好きなオタク系ネット民は激怒するだろうが、それらミュージシャン及びそれに準ずる立場という設定を与えられたゲームキャラが現実世界の各地における娯楽音楽の第一線を走るミュージシャンに本格的に「勝った」事例は現時点ではまだ少ないのではなかろうか。「勝った」例を挙げるとするならばアイマスシリーズ関連か、関連作品が先行し満を持しての今年のサービス開始後に大当たりして難無きを得た『ウマ娘プリティーダービー』のテーマ曲『うまぴょい伝説』ぐらいだろう。それらすらその「お手本」はモーニング娘。やAKB48をはじめとした現実世界の日本の少女アイドルグループでありそれらのヒットがあって受け入れられたゲーム曲である。スプラトゥーンシリーズの音楽もそこそこウケているとはいえ実のところコップならぬタコツボの中の嵐ではという感が否めない。
個人的にはAKB48以後の「女子中高生っぽいアイドル」の氾濫と初音ミクの登場がきっかけのニコ動のボカロ曲ブームは元々微妙な部分が目立つ日本の娯楽コンテンツを更にダメにした要因の大きなひとつではと見ているが、それはさておきアイマスシリーズやその影響を受けたゲームのキャラクターの持ち歌という設定の曲に対してどう森のとたけけ曲は一部にポップスのサンプルみたいな曲はあれど結局古今東西の楽曲サンプルでしかない部分を超えない以上、流行曲はおろかとたけけ曲の「お手本」に肉薄することすらまず難しいのではなかろうか。
しかもどう森シリーズでは何故とたけけが劇中における唯一無二のミュージシャンなのか、そして何故彼が現実世界の音楽ジャンルを知っているのかというストーリーが全く語られない。まあどう森シリーズの世界観設定は脆弱でありそれがまたシリーズの魅力と結びついているところがあるので仕方がないと言えば仕方がないが、スプラトゥーンシリーズにおけるシオカラーズやテンタクルス等の劇中に登場するミュージシャン設定のキャラに生い立ち等の設定が存在しているのは作品の世界観がそれを必要としたからだけでなく、どう森シリーズのとたけけというキャラについての反省や差違化もあるのだろう。
何が言いたいかというと、一部ネット民の影響を受けてゲーム音楽を持ち上げるのも良いがそれ以前にそうじゃないポップスはじめとしたゲームに一切関係がない音楽も大事にしろよ、あとどう森のとたけけ好きは戸高一生氏以外の歴代どう森シリーズ作品に関与してきたマジで全員レジェンド級なコンポーザー達にも注目してみてはどうかという事だ。
まあ日本の音楽シーンが衰退し滅びようが世界の先進圏における音楽シーンが健在である以上まずそんな事は起きないと思うがゲーム音楽の「お手本」となるポップス含めた現実世界の音楽が廃れたりダメな方向に行ったらゲーム音楽もその影響をいずれ喰らうのである。そしてその事は音楽以外の文化コンテンツについても同じだ。実のところ「高尚な」文化コンテンツも理解出来ないし大して興味も無い自分であるが、COVID-19パンデミック以後のTwitterを見ているうちに「表現の自由」を旗印にしてリベラルから左翼方向の者を腐しがちな日本のゲーム・アニメ・マンガやボカロ案件含めたそれらの影響を受けたキャラクターコンテンツ好きのオタク系ネット民の一部はもしかしてゲーム・アニメ・マンガやその影響を受けたコンテンツはそれ以外のコンテンツの影響あってのそれらなのだという事をわかっていないのではないのか? と思いたくなる時が冗談抜きに増えた。
あつ森アプデで追加されたとたけけ曲に『けけロイド』以外にもタイトルそのものズバリな『チルウェイブ』をはじめとした前世紀後半以降の娯楽音楽オマージュ曲が多く追加された事は、ゲーム音楽も現実世界の音楽シーンあってのものであるという事の証左に他ならない。だから元からオワコンな他の日本発の娯楽コンテンツ共々滅びろという感しかない腐ったJ-POPでも良いからゲーム音楽ではない曲、更に欲を言えばボカロ・UTAUやアニメともなるべく無関係な曲も今後のゲーム音楽の為に推すべし聴くべし。ま、世の中のゲームオタクの大半はそんな事をわざわざ他人から言われなくてもゲーム音楽以外の曲もしれっと聴いていると思うし、思想・信条・所業が好かないミュージシャンは叩くなり腐すなりするのは誰とて同じ、そして明らかにダメな音楽業界の所業や明らかにダメな考えを持ってしまったミュージシャンは批判されて然るべきだが。